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関西在住の元大学生

『恋文の技術』森見登美彦

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手紙っていいな、って思わされる。

 

本書は今大人気?の森見登美彦さんの書簡形式の本である。冒頭から主人公の守田は地方の研究所に島流しにされているのだが、そこから様々な知人に手紙を送り、恋文を書くための技術を磨いていく。それは、何だかんだと理由をつけているが伊吹さんという意中の相手を落とすためだ。その手段に手紙を選ぶところがまた、面白いよね。

 

上述したように本書は書簡形式である。しかも、差出人=主人公の手紙しか掲載されていない(一部例外もあるが)。これが本書を特徴付ける点だと思うが、これがそこそこ面白かった。というのも、受取人=主人公の手紙が無くとも、どんな内容のものが来たのかがなんとなーく分かるようになっていて、想像力が掻き立てられる。それが楽しかった。

「手紙を書くということ」

本書でずーっと物語進行の担い手となっている手紙、これがとってもいいなと思わされたのである。

というのも、手紙はやはりメールやLINEとはまた違ったコミュニケーション手段だと思うのだ、当たり前のことだが。

手紙には書いている時間、送りに行く時間、受け取るまでの時間、それぞれに圧倒的な「間」があると思う。この「間」というのが手紙とメール、LINEとの大きな違いだろう。LINEだとちゃっちゃと書いて、ポチッと押せばすぐ相手に伝わって、相手もそれは一緒だからすぐ返事も帰ってくる。しかし、手紙は全くそうではない。あらゆる行程に時間がかかってしまう。

それでも、それは必ずしも悪いことではない。書くのに時間がかかる分、相手へどうしたら想いが伝わるのかを思考錯誤していくもので、とても相手のことを考える時間だと思う。そして、手紙を投函してからも相手がこれを読んで「どんなことを思うのかな?」とか「どんな返事が返ってくるのかな?」とか、様々なことをずっと考えて、どきどきするだろう。何というか、こういう時間ってのはとっても豊かな時間だと思うのだ。

そして、こういう独特の「間」が存在することが、相手に文面以上の想いを伝えるのだと思う。手紙をわざわざ用意してくれたんだろうなとか、時間をとって書いてくれたんだろうなとか、ポストまでわざわざ持って行ったんだろうなとか、書き始めからポスト投函までの様々なストーリーが文面以上に想像されるのだと思う。

主人公はこういう性質を持った手紙を駆使して様々な人と関係性を取り持っていくが、うむ、非常に楽しそうだった。

自分も1人とくらいやってみたいものだ。